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疲れた。
学校に人間関係に、周りからの期待に満ちた視線を浴びることに。
そして、ここに存在していることに。
その自信は一体なんの根拠からきてるの?
僕があなたたちの期待にそえるというその自信は。
だけど僕は臆病で、偽善者だからあなたたちの期待と夢を壊すようなことはしないよ。
ちゃんと机にかじりついて、立派な学校に進学して大きな会社に就職するつもりさ。
ちゃんと期待に答えるよ。
約束するよ。
だけど、ほら今みたいに
気づいたらなんだか胸が苦しくって。
「あーぁ。一体お前は何してんだ」って呆れた顔したもう一人の僕が言うんだ。
ほんと笑っちゃうよね。
だけど僕もたまに思うんだ。
あーぁって。
朝起きるとあたしは枕の横にいつも置いて寝てるウォークマンを掴んで、気に入っている音楽―その日の朝の気分にあった―を一曲だけ聞く。あたしは低血圧なので、寝起きがすごく悪い。だから大抵は出だしの静かな曲を選ぶ。いきなりばーん!って入る曲は下がっている血圧をさらに下げるから朝は聞かない。一階から母があたしを呼ぶ声がしたので、イヤホンを外してから曲を止めて下に降りる。
「おはよう」
朝起きると母はもう化粧をしてして、あたしから見るとそんなに変わっていないけど
髪を細かいところまで念入りにセットしている。くしで梳かしてみたり、ヘアスプレーをかけてみたり、
目の届くところにおいておくとあたしの気に入ってるワックスも使うのでいちいち二階から持ってくるようにしている。
「おはよう、今度の土曜日三者懇談会だったよねー?
お母さんさぁ、お昼前にって言ったけど今から時間変えれるかな。仕事忙しくなってきたから抜けられないのよ。」
うちの母はまぁまぁ売り上げのいい(本人いわく)建設関係の会社に30年、18歳のときから事務として勤めている。社長が「ケチ」だから事務 兼 受付嬢としてクライアントを接客しなければならないらしい。
納得のいく髪型になったらしい母は、かばんを持って玄関へ行く。
うちは家族共同で化粧台を使ってるから、ヒエラルキーに従って母から姉、姉からあたしの順番で使っていく。昨日から姉は彼氏の家に泊まりにいっているので、今日は母の次に使うことができた。
「わかった。先生に頼んどく。」
「よろしくー1時半くらにしといて。」
「おっけー。」
「あ、あと」
玄関の戸を開けると、母の体の左側がぱっと朝日でオレンジ色に染まる。
「今日夕ごはん中村さんと食べてくるから、ねえちゃんと食べてて。」
「――――おっけー。」
母には恋人がいる。両親はあたしたちが小さいころ離婚した。理由は高校3年になってから知った。父はお酒を飲むと母に手をあげていたらしい。母は離婚しても父に会わせてくれていたから、あんなに優しい人がそんなことをしていたなんて信じられなかった。 ただ、霞んでおぼろげな小さいころの記憶に泣きながら姉とあたしの間に挟まれて、
「お母さんとお父さんと、どっちと一緒に行く?」と聞いた母の姿を覚えている。まだあたしは5歳くらいだったけど、「この人を守らなければならない」と思ったことも、覚えている。
化粧台の前には最近始めて買った化粧品が並んでいる。高校のときは部活部活の毎日で「女の子」を全然しなかった。ねえちゃんいわく、「さびしい高校生活」らしいけど、あたしは大事な親友もできたし、後悔するような「さびしい高校生活」だったとはぜんっぜん思ってない。
ただ、後悔することがあるとすれば、
あの人がだれだったのか、あの時どうしてあの人に心惹かれたのか、
あの人は彼女を見つめてなにを思っていたのか、
それを知ることができなかったことが、
それだけが あたしの高校生活の 後悔。
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